メキシコで体外受精+着床前スクリーニング 一日目・後編
待合室にて待つこと30分か、1時間も待たなかったと思う。名前を呼ばれて、奥から二番目のドアへ入ると、優しそうな顔のこじんまりした男の先生が、ドクター・チアンです、と自己紹介して迎えてくれた。
事前にメールで、連絡係の方から先生の名前は教えてもらっていたので、聞き返したりすることもなく、すんなり名前が頭に入ってきて一安心、挨拶をひと通り済ませる。
そして本題。
バースコントロール・ピルを飲んでいたにも関わらず、三日も早く不正出血が始まっていることを会話で確認した後、とにかく超音波で子宮の状態を診てみようとなり、先生のデスクの後ろのドアから隣の部屋へ移動した。
その部屋は照明は暗く、超音波検診のための器具、ベッドとモニターが置かれていて、さらに奥にはもう一つドアがあり、そこは専用の更衣室兼洗面所だった。
そこで青い検診衣に着替えて、超音波の部屋へ戻り、いざ検診となった。緊張するなと頭の中で自分に言い聞かせながら、モニターに映る自分の子宮を見つめる。と言っても、何が映っているのか殆どわからないけど。
しばし先生がモニターを見つめて無言で検診。数分の後に聞きなれない単語が出てきた。
「卵巣嚢腫ですね、左の卵巣に。知っていましたか?」
もちろん知らなかった。嚢腫って…つまりどういうことなのか。ここまで来て、まさか治療を進められないということなのか。
先生に服を着替えるよう、話の続きは隣の部屋で、と言われるまま診察台を降り、服を着替えて最初の診察室へ移動した。
卵巣嚢腫という英単語(Ovarian Cyst)を初めて聞いた私は、先生にもう一度詳しく説明してくださいと頼んだ。
ドクター・チアンは本当に優しい先生で、難しい顔や嫌な顔は一切せず、僕の英語もそんなに上手くなくて申し訳ないとまで言ってくれて、卵巣嚢腫がどういうものか、私たち夫婦の治療にどんな影響があるか説明してくれた。
そしてとりあえず、治療を進める前に、この嚢腫がどんな性質か私のホルモンの値を見る必要があるとして、血液検査をすることになった。
ある特定のホルモン値が低ければ、卵胞刺激ホルモン注射がまだ効くかもしれないということだった。注射が有効なら、嚢腫があっても他に卵胞を作れる事もあるのだそう。
血液検査の結果は4時間くらいで出るから、クリニックから連絡するので、その時に今後の方針を決めましょう。
ドクター・チアンと握手を交わして別れ、検査のため採血をし、クリニックを出たのは午後1時頃だった。
その後私たちは、一度バケーションレンタルのアパートメントへ荷物を置かせてもらいに行き、3時のチェックインまで近くのモールで時間を潰し、部屋に落ち着いてから連絡係の方にメールしたけれど、進展があればエストさんから連絡がいくとのことで、しかしその日は結局クリニックから連絡はなかった。
カンクン滞在中いちばん長かった一日は、こうして終わった。